つくづく五右ェ門はむっつりすけべだと思う。
いや、思うというか極度のむっつ
りすけべ、だ。わたしがキスを強請ってもどうにかこうにか言い訳をつけて話を
片づけようとする。 それで食い下がるような腑抜け呆れたわたしじゃない。
しかしまだたった一度しかあいつとキスをしていないのは事実。それというのも
、わたしが寝入っていた五右ェ門に不意打ちをしただけのもの。(こういえば言
葉が汚いけれど、襲ったと言った方が話は早いと思う。)
しかしいくらなんでも奥手すぎる。
「ねえ五ェ門ってさー」
「何でござるか」
わたしに背を向けて鎮座したまま一見その両手は刀の手入れをしているのだ
けれど、 意識はもう完璧わたしの方にキている。
わかりやすいなあ。でもそう
いうところ、すごく、かわいいと思うよ。
「五ェ門ってさ、キス、したことあるよね?」
ソファに寝そべり足をぱたぱた悪戯に動かしたら、五右ェ門は俯いた。大方顔
を真っ赤にしているくらいだろう。背中向けられてるのが残念だなあとわたしは
おもった。
「なっ…なにを…拙者は…っ」
「知ってるんだからね」
「…っ殿!」
「いい加減って呼んで?」
「す…すまん」
「わたしは五ェ門に謝ってほしいんじゃないのよ」
「…ど……」
「うん」
「だから…その…」
どんどん小さくなっていくその背中に若干の良心はいたむものの、
その裏側で
反比例するようにみるみる膨らんでゆく悪戯心にからだが支配されそうになって
わたしは言った。
「ね、五ェ門、キスして?」
5秒と0.7秒というまるで永遠のような時間を戸惑い、
彷徨いながら五ェ門が
こちらへ向かってひどく申し訳なさそうにゆっくりと歩み寄ってきたので、わたし
はすこし苦笑して目を閉じる。
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