昨日ともだちがしんだ。

四月に独りぼっちの人はいない




厳密に言えば「死んだ人はわたしのともだちだった」と表現した方がいいのかも
しれない。わたしにとってその人はとても大事だった。しかし今はもう完全に失
われてしまった。彼女の最期はそれはそれは残酷なもので、吐き気を全身に感じ
るほどのものだったらしい。

しかしあくまでもわたしは「らしい」という形で受け取っておく。口ではなんと
でも言えるのだ。ひどい死に方をした。むごい死に様だった。様様色々。
気を使ってくれたのだろうか、周囲の人はだれひとりとして、わたしに何も言お
うとはしなかった。それを知らせてもくれなかった。しかしすこし遅れに、人づ
てで例の訃報をかすめ取ったわたしはその晩泣いた。
なにも解らないままひたすらに泣いた。わたしは泣いて泣いて泣いて泣いて、そ
れから茫然とした。上手に泣けた自信はない。
しかし目を閉じれば解るのだ。彼女がもうこの世界にいないことが。呼吸をする
器官が失われてしまったことが。あのやさしい指先がただの肉片になってしまっ
たことが。

もうあの声は遠くにいってしまったということが。


わたしは顔を上げ、開け放した窓から月を睨み、誰かを恨もうとした。しかしわ
たしの中にあるささやかな信仰心がそれをとどめた。それからなみだを拭い、疲
れて月に背骨を見せた。
「いつの間にきてたのラビ。」私は言った。目前に立つ人の赤い髪が差し込む月
光に映えていつもよりもいやに赤く見える。動脈にながれる血のようだ、と思っ
た。「今さっき」ラビは優しい隻眼で前を見た。(前にはわたししかいない)
それを認めたわたしの二つの眼は、また涙を流し始めた。
、なあ、なんで泣くんさ」
「泣くなよ」
「なあって」
彼なりにわたしを気にしてくれているのだろうけれど。それは今裏目に出てしま
っていた。
「すこし、胸かしてよ」
黙ってていいから、とわたしはラビの固い団服を引っ掴み、顔を押し付け、これ
でもかと言わんばかりに泣いた。声は何故か出なかった。うまく泣けているのか
矢張りわたしには解らない。
ラビは黙ってくれていた。それでまた泣けてきた。ああわたしはこんなにもあの
子のことがすきだったのかと驚きもした。もう会えないのか。
しかしこれは、きっとこの死は悪夢の始まりにしか過ぎないのだ。エクソシスト
の悲しい運命。宿命。サダメ。

涙が枯れて、わたしが顔をあげると(きっとひどい顔だ)ラビも泣いていた。彼
が泣く理由などない筈なのに。